教育情勢

教科書に自衛隊の勧め

戦後初、軍備のため「愛国心養う」教育

戦争国家つくる安保3文書先取り

A社版小学6年社会科教科書に載るQRコードをタブレット端末で読み取ると、簡単に「防衛省・自衛隊キッズサイト」につながります。

火を噴く戦車や戦闘機の動画がサイトのトップで流れ、子ども向けの「はじめての防衛白書 まるわかり!日本の防衛」や「自衛隊検定」、「市ヶ谷ツアー」などが続きます。

「軍隊」としての姿薄める

“自衛隊HPより引用”

この夏は、来年度から小学校で使う教科書が各教育委員会で選ばれます。

子どもと教科書全国ネット21の糀谷陽子事務局次長は、「現行の教科書より、自衛隊に関する記述が増えた」と指摘します。「平和主義」「自然災害」「国際連合」を学ぶページで頻繁に登場します。

B社版6年には、本文に「日本の平和と安全を守るために、自衛隊の役割は重要です」と記述。「その一方、あとの説明を自然災害での活動に落とし込み、戦争のための軍隊と言う位置づけを薄めています。自衛隊についての違憲・合憲の両論併記もない」と糀谷さんは批判します。

全3社版とも「平和主義のページに自衛隊の災害派遣時の写真を使っています。災害救助を前面に出し、自衛隊とはそういうものだと教えたいのでは」と糀谷さん。

加害の事実を消すねらい

政府が2017年に改訂した学習指導要領では、4年生の社会科に自衛隊が書き加えられました。文科省の解釈を示す「解説」は、6年生で憲法の平和主義を扱う際に「自衛隊が我が国の平和と安全を守っていることに触れる」としています。

また、日本を「戦争する国」にするために、政府は加害の事実を教科書から消そうとしています。菅政権は21年、朝鮮人戦時労働について「強制連行・強制労働」を否定する答弁書を閣議決定しました。その結果、本人の意思に反して連れて行かれた事実が薄められています。政府見解を記すとした安倍政権下での教科書検定基準の改悪(14年)によるものです。

教え子を再び戦場に送らない!

岸田政権は、欧米並みの少人数学級の早期実現や教職員の定数増・教育の無償化には背を向ける一方で、教育内容に介入し、教育の自由を奪い、戦争国家づくりをねらっています。

日本の教育は、かつてない危機に直面しています。

真実を学び、考える教育が求められます。全国の教職員と父母・国民とが連帯し、子どもたちとともに、平和と民主主義を必ず守りぬきましょう。

この理想の実現は、根本において教育の力にまつべきものである。

        (「しんぶん赤旗・日曜版 2023.7.29」より抜粋し、加筆しました)

見落とせぬ統制の強化

                 ~小学校の教科書~

2024年度から小学校で使う教科書の検定結果を文部科学省が公表した。子どもたちに情報端末がほぼ行き渡ったことを背景に、デジタル対応が進み、教科書は姿を変えている。

教科に関わりなく、全ての教科書がQRコードを載せた。四角いモザイク状の符号を端末で読み取ると、関連する映像や音声、資料を閲覧できる。各教科書のQRコードの数も増えた。

英語の発音や国語で扱う作品を音声で聞く、理科の実験を動画で見るといった利点が挙げられる一方、子どもが自分で調べる機会が減るのを心配する声がある。使い方に不慣れな教員も多い。

子どもたちの主体的で豊かな学びにどうつなげるか。まだ手探りの段階にある。デジタル化はあくまで手段であって、それ自体が目的ではない。そのことを踏まえ。何より学校や教員が振り回されないようにすることが肝心だ。

デジタル教材の活用に目が向きがちになるあまり、見落としてはならないことがある。検定による教育の統制が小学校の教科書にも確実に及んでいることだ。

5年生の社会では、北方領土、竹島、尖閣諸島について、全ての教科書が「固有の領土」と記載した、政府見解が定まっている以上、その通りに書くしかないと編集担当者は口にする。

文科省は安倍政権下の14年、政府の見解を記述するよう検定基準を改めた。学習指導要領の解説書は5年生の箇所で、一度も他国の領土になっていない固有の領土であることに触れるとしている。

道徳では、指導要領が挙げる「伝統と文化の尊重、国や郷土を愛する態度」の扱いが不十分だとする検定意見が13件に上った。申請段階で「郷土のほこり」としていた記述を「郷土と日本の…」に修正して合格した教科書もある。

教科書は、国が子どもに特定の考え方や精神を教え込むためにあるのではない。政府の見解を盾に教科書の記述を書き換えさせるのは、事実上の検閲に等しい。

検定制度は、教科書の編集を民間に委ね、創意工夫を促すのがそもそもの趣旨だ。その根底には、戦前の国定教科書が子どもたちを軍国主義に駆り立てる道具になったことへの反省がある。

教育は政治権力から独立していることが何よりも大事だ。本来、事実の誤りの指摘など最小限にとどめるべき検定制度が崩れ、教科書の固定化が進む現状をどう押し返すか。教育の現場から、地域から、社会に議論を広げたい。

                                 (「信濃毎日新聞 2023.3.30 社説」)

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