働くことについて考える②
働くとはどういうことか、菊地良輔氏が著書でわかりやすく書かれていますので、そのまま引用します。
働くことについて考える
わたしたちが、食べるもの、着るもの、住む家、使っている道具、それらすべては、人間の労働がつくり出したものです。
人間は、自然からその素材をあたえられ、労働によって、自分たちの生活をささえるために必要なものを作りだします。
目の前にある1冊の本について考えても、これが今ここにあるためには、いったい何人の人の労働が加わらなければならなかったでしょう。
まず、主な材料である紙が、その原木から用紙になるまでには、いろいろな工程を経なければなりません。
本の内容となる原稿を書くためには、著者のたいへんな苦労が必要でしょう。
それが印刷され、製本されていくわけですが、その過程に、ずいぶん多くの人たちの労働がかかわっていることはいうまでもありません。
そして、そこで使われている機械、器具、資材のそれぞれもまた、無数の人たちが働くことによって生み出されたものです。

さらに、本ができあがってからも、運搬をはじめとするいろんな作業を経なければ、私たち読者の手にはとどきません。
こうしてみると、たった1冊のこの本だけでも、人間の労働がまったく多種多様に、複雑にかかわり合っていることがわかります。
都会の子であるきみたちは、ほとんど、目の前にものを作っているところを見ていないので、つい、それが労働の産物だということを忘れがちです。
また、お金を出せばたいていのものは手に入る世の中で、お金の大事さはわかったとしても、ものの大事さを忘れ、さらに、それらのすべてのもとである自然の恩恵についても見落としてしまいやすくなっています。
最近、資源は有限だということが言われ、とくにエネルギーを節約することが強調されていますが、わたしたちの生活にとっての労働の役割を見直すことは、それ以上に大切なことと言っていいと思います。
きみたちは、まだ、直接自分で労働に参加し、ものを作り出し、社会に送り出す立場になく、ほとんど一方的に、働く人たちが作り出したものを食べて、着て、使って生活しています。

しかし、おとなになっても、それがそのままつづくわけではありません。
今度は、自分たちが作り出す立場にまわることになります。
「勉強」の役割はいろいろありますが、その中の最も大切なひとつは、将来の社会ですぐれた働き手になることです。
おとなの世代は、きみたちのそれを期待し、学校をはじめとするいろいろな教育施設を作っているのです。
現在の社会は、複雑になっていますから、ものを直接作り出す、いわゆる生産労働ばかりでなく
社会を維持、発展させていくために必要な仕事はたくさんあります。
中にはお金をかせぐために、社会のためにならない仕事をする人もありますが、ここでは、労働こそが人間を人間として生活していくための第一の基本条件であることを、まず、しっかり確認しておきましょう。
(つづく)
菊地良輔著『おとなへの出発』(民衆社)より
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