教育情勢

学校統廃合は、子どものためになるか

学校統廃合・小中一貫、何が問題か

学校統廃合の件数は2001年頃から上昇し高止まりの様相です。平成の市町村合併で地方の廃校数が増加しました。さらに、2014年からスタートした国の「地方創生」や「公共施設等総合管理計画」で、政策的に進められてきました。

1973年の文部省初等中等教育局長・文部省管理局通達「公立小・中学校の統合について」で、「小規模校には教職員と児童生徒の人間的触れ合いや個別指導の面で」「教育上の利点も考えられる」と小規模校の価値を認めていました。「12~18学級」を「適正規模」とすることに教育学的な根拠がないことも国会答弁で述べられていました。

文科省は、通学について、小学校4キロ以内、中学校6キロ以内という従来の基準は「引き続き妥当」としつつ、スクールバスの導入などで交通手段が確保できる場合は「おおむね1時間」を目安とするという基準に変えました。遠方の学校への統合を促すための条件緩和です。

取ってつけた「根拠」

2015年文科省は、統廃合の促進を狙った「手引」をまとめましたが、「切磋琢磨」といった俗説的な言葉さえ用い、明確な教育的根拠は示されていません。

また、小中一貫校の教育学的根拠について文科省は「一貫校と非一貫校を同一条件で比較した実証的な研究は存在しない」としています。

2000年から、小中一貫教育導入の根拠として、「中1ギャップの解消」と「発達の早期化による4年生と5年生の間に生じる発達の段差」が示されました。しかしその後、「中1ギャップ」「発達の早期化」に科学的根拠がないことが、国立教育政策研究所などから提起されるに至っています。

近年は、小中で指導方法などをそろえる「小中スタンダード」の一貫性、「学びの連続性」などに置き換えられる傾向がみられます。

優れた小規模校の教育実践と学校の役割

小規模校には一人ひとりに目が行き届き、すべての子どもに活躍の場をつくれるなどの利点もあります。地域の人たちと協力して子どもの社会性を育む工夫をするなど、小規模化による困難を克服しながら、学校の特徴を生かして充実した教育活動を実践している例が各地にあります。

学校は住民にとっても文化的な活動をはじめ地域の交流や防災の拠点になるなど、重要な役割をもっています。 地域から学校がなくなれば「地方創生」どころか、人口減・超高齢化に拍車をかける悪循環にもなりかねません。

目的は コスト削減

教職員・住民の声を無視した導入は許されない

コスト削減だけが目的の学校統廃合・小中一貫校づくりは、教育的効果の根拠も、安心快適な地域づくりという視点もありません。

財務省は、全小中学校が標準規模の12学級以上になれば、全国で5462校が削減でき、教職員も大幅に減らせるとの試算を示し「積極的に統廃合に取り組む」ことを迫っています。子どもや地域の実情を考えずに「財政」を口実にして統廃合ありきという姿勢は、本末転倒です。

文科省の「手引」自体も「学校規模の適正化」は「行政が一方的に進める性格のもの」でなく、「『地域と共にある学校づくり』の視点を踏まえた丁寧な議論」が必要だとし、基準の機械的運用にくぎをさしています。

自治体は保護者や住民の意向を無視して統廃合を強行すべきではありません。

地域の学校を存続させるために

小規模校のデメリットを用いて不安をあおり、根拠のない「教育的効果」論や俗説であっても、教育行政は保護者への宣伝に積極的に利用しています。

小規模校の優れた教育実践のイメージをもち、統廃合や小中一貫校の問題点・デメリットについて、教職員が保護者とともに学習・討論することがいま必要ではないでしょうか。

和光大学教授 山本由美「学校統廃合の新局面と教育論を無視したその問題性」(月刊『住民と自治』2022年2月号所収)より、引用、要約しました。

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