いじめ問題に取り組む(7)
(名前はすべて仮名)
ついにYさんが……
1996年2月7日のことです。
クラスの中でいじめを受けていたYさんは、ついに耐えられなくなりました。
当時の学級通信の記録を手繰り、Yさんへのいじめにどう取り組んだか再現することにします。
────────────────────────────────────────────
Yさんは、小学校の1・2年生のころからずっといじめを受け続けています。それは、中学校に入ってからもなくならず、2年7組においてもなくなっていませんでした。
2学期になると、Yさんはそのことを作文やアンケートにも書くようになり、私もそれをとりあげ、クラスのみんなにうったえてきましたが、いじめはなくなっていません。
そういうストレスからか、Yさんは、最近、授業に出ずに保健室に行くことも多くなり、髪の毛を抜いてしまったりするようになりました。
そして、2月7日の朝、Yさんは、(養護の)金子先生のところへ行き、「金子先生と久永先生に相談したいことがあります」と言いました。
2時間目、私が「どうしたの?」と聞くと、Yさんは、次のようなことを話してくれました。
私は、いじめを受けています。男子の4~5人が中心となっています。でも、10人ぐらいがそういう感じです。
私が通ると、避けたり、自分で服を手ではらうような動作をしたり(いかにも「きたない」というように)します。また、「くさい」と言ったり、「バーカ」と言ったり、「なんだでめー」と言ったりするのです。(目にはいっぱいの涙が…)「つらいです」
教室に行くのはいやです。学校に来るのがいやです。家に帰りたい。でもお母さんは、「休んじゃいけない」というので… (目に涙があふれます)
私はYさんに「それはつらいね」「担任として、本当に申し訳ない」と言い、「つらいなら、教室に行かなくてもいいし、学校に来なくてもいい。安心して来られるように、先生が何とかするから、それまではそうしなさい」と言い、すぐに家まで送り、お母さんにも以上ことをお話ししました。
私は、名前のあがった5人の男子を呼んで、注意しようかとも思いましたが、それでは本当の解決にはならない、クラスの問題だと考え(これはいじめた人だけの問題ではなく、それを見過ごしたり、許していたりしたクラスの問題だからです)、2時間目終了後、新旧の学級委員を呼び(学級委員は、クラスの第一のリーダーですし、Yさんが学級委員を信頼しているからです)、Yさんから聞いた話と私の考え(クラスの問題だということ)を伝えました。そして学級委員たちに「きみたちが中心になって相談して、なんとかしてほしい」と言いました(4月からこれまで、毎日のように話し合いを続けてきましたし、学級委員がクラスのリーダーとして力をつけてきたからです)
私が
「よろしくお願いします」
と言うと、学級委員たちは
「わかりました」
と答えました。緊張感と責任をかみしめるような重みが……
「自分たちで何とかしなくては」という表情で、教室にもどっていきました。
私はその日の午後、出張だったのですが、途中で学校にもどってきました。
ちょうど帰りの会。連絡事項が終わってあと、
「新旧の学級委員は、前に出て!」
と学級委員の秋山さん。
そして、みんなに語り始めました。
(秋山さん)「うちのクラスにいじめはないですか?日常生活を見ていて…全くいじめはないと思っている人はいますか?」
「うちのクラスにいじめがないと思う人は手を挙げてください」
だれも手を挙げません。
「では、うちのクラスにいじめがあるということですね」
「うちのクラスに、学校に来たくないという人が出ました。Yさんです。男子4~5人がいやなことをするそうです。女子はしないが、助けてくれる人もいないようです。女子も無関心だったのは、その男子だけの問題ではないということです。クラス内であったことなのに、他の人のことを考えられなかったということだと思います。これはクラスの問題だと思います。7組は、もう一度はじめからやりなおした方がいいと思います」
(佐藤くん)「Yさんが髪の毛を抜いているのは、単なるくせではなくて、いじめが原因のストレスで、髪の毛を抜いたりしているのだと思います」
(秋山さん)「それをからかったりしている人もいたのですし…」
(佐藤くん)「気づいている人がいたのに、注意する心がなかったので、こうなってしまったと思います」
(秋山さん)「クラスでそういうのがあるのはおかしいと思います。クラスの仲間が一人でもへってしまうのはいやです。クラスを一にもどしてやりなおしましょう。Yさんは深く傷ついています。へたすれば自殺したくなります。一日もはやく学校に来られるようにしてあげた方がいいん じゃないでしょうか」
(佐藤くん)「4~5人のせいだけではなくて、見て見ぬふりをしていた人も加害者ではないでしょうか。注意する人がいないから、こうなってしまったと思います」
(北野さん)「Yさんが来ても、差別しないようにしたいと思います」
(佐藤くん)「自分は気づいていましたが、止められませんでした」
(吉村さん)「私は気づいていましたが、止められず、注意できなかった自分がだめだと思います。
みんなで話し合って、一日も早くYさんが学校に来られるようにしたいと思います」
(秋山さん)「注意できなかったということは、先生が言っている〝もう一人の自分〟ができていなかったということだと思います」 (つづく)
(「2年7組学級通信№157」より)
コメント