道徳教育について考える(2)
道徳の教科化について考える〔1〕
「道徳」の教科化が急浮上し、強行されたのは、安倍政権の時でした。
その頃の、論文を引いて、「道徳」の教科化がどのように進められ、また、その狙いは何なのか、考えてみましょう。
「道徳」教科化への政策動向とその批判
立憲主義の危機のもとですすむ教育改革
櫻井 歓(日本大学)
急テンポですすめられる「道徳」教科化政策
第2次安倍政権のもと、「道徳」教科化へ向けての政策が急テンポですすめられています。
政権発足からわずか2か月後の2013年2月26日に、教育再生実行会議から提出された「いじめ問題への対応について(第一次提言)」では、いじめ問題の解決の方途として、第1に「道徳」の教科化が挙げられました。

この提言を受けて設置された「道徳教育の充実に関する懇談会」は、同年12月26日に「今後の道徳教育の改善・充実方策について(報告)~新しい時代を、人としてより良く生きる力を育てるために~」を発表しました。
この報告では、「道徳の時間」をたとえば「特別の教科 道徳」(仮称)と位置づけたうえで、検定教科書を使用させるという構想が示されています。
また、同懇談会のもとで「心のノート」の全面改訂作業がすすめられ、2014年2月14日には文部科学省が新しい道徳教育教材「私たちの道徳」を公表しました。
さらには2月17日には、下村博文文部科学大臣より中央教育審議会に「道徳に係る教育課程の改善について諮問がなされ、現在は中教審の道徳教育専門部会で、教科化に向けての教育課程上の位置づけや道徳教育の目標などについて、今秋を目途に答申案をまとめる方向で審議がすすめられています。
こうした政策動向から読み取れる教科化のポイントとしては
- 授業実施への強制力の強化
- 検定教科書の使用
- 児童・生徒への成績評価が挙げられます。
さらに、現段階では流動的でありながら、今後具体化されていく可能性のある事柄も含めると - 「道徳」を中心とする教育課程全体の再編成
- 大学の教員養成課程での「道徳」関係科目の必修単位増加
- 「道徳」の専門免許の創設、といったことが挙げられます。
背景にある世論
読売報道をめぐって
こうした政策が、世論の一定の支持を背景としてすすめられている点でも、注意が必要です。

少し前の情報ですが、2013年4月18日付の「読売新聞」では、同社の「教育」に関する全国世論調査の結果として、「道徳」の教科化について「賛成」が84%、「反対」が10%と報道されました。
賛成の理由としては、「他人を思いやる心が育つ」52%、「社会規範が身につく」35%などとなっています。
一方、反対の理由としては、「成績評価の対象とするのはなじまない」48%、「多様な価値観の否定につながる」31%などとなっています。
もっとも、この報道については、世論調査の質問内容と結果の報じ方に、若干のずれがあることを指摘したいと思います。
この項目の質問内容は次の通りです。
「政府は、小・中学校の『道徳』の科目〔ママ〕を正式な教科に採用し、授業内容を充実させることを検討しています。あなたは、政府のこうした方針に、賛成ですか、反対ですか」。
この質問内容から読み取れるポイントは、「道徳」の教科化による授業内容の充実ということであり、「授業内容を充実させる」という点を捉えて「賛成」と回答した人が少なくない可能性があります。
一方、調査結果を報じた記事の本文では、「『道徳』を小中学校の正式な教科にする政府の方針に賛成する人は84%で、「反対」は10%にとどまった」と書かれており、「道徳」教科化の政府方針を包括的に支持しているかのように読み取れる表現となっています。
教科化推進派は、この読売報道を挙げて、親たちも「道徳」の教科化を求めていると主張します。
しかし世論調査報道のトリックといえるような面もありますので、「道徳教科化『賛成』84%」という数字だけを一人歩きさせないように注意が必要です。(つづく)
『クレスコ 2014年8月』(大槻書店)より
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